最近、宍戸さんがやたらと俺の胸を触りたがる。
服の上からはもちろん、えっちの最中も気が付くと宍戸さんの手は俺の胸に添えられていて、押しつぶしてみたり揉んでみたり、ときどき乳首をつねってみたりする。
女の子みたいに柔らかいわけでもなく、宍戸さんみたいに感度がいいわけでもない俺の胸を触って何が楽しいのかわからないけれど、宍戸さんがそれで満足するならいくらでも触ってくれて構わない。
ベッドの上で先に裸になった俺は、宍戸さんがバスローブを肩から落とすのを横目に備え付けのコンドームの封を切った。
「昔はラブホのコンドームには穴が開いているなんて噂があったりしたっけ」
「穴が開いてても関係ないだろ、俺たちには」
「大有りですよ。宍戸さんがおなか壊しちゃうでしょ」
「そんなヘマはしねぇだろ。なぁ、長太郎」
「もちろんです」
一緒にシャワーを浴びながらまさぐりあったせいで、俺も宍戸さんも体は準備万端になっていた。
ラブホテルに来ることははじめから承知の上で映画のレイトショーを観た俺たちは、エンドロールまでしっかり観てから深夜営業のカフェでパンフレットを開きながら映画の感想を話したりして休憩し、その後予定通りここに来た。
人通りのめっきり減った深夜は、ラブホテルに入る敷居が低くなる。
家ですることが多い俺たちだけど、ときどきはこうやって深夜の散歩に繰り出すこともあるのだ。
「もう入れてもいいですか?」
「誰かさんにさっきさんざん弄られたからな」
「だって宍戸さんがえっちな目してたから」
「なんだよ、えっちな目って」
「それは、ほら、こういう目」
ベッドに乗り上げてきた宍戸さんを引き寄せる。
俺の腰に跨った宍戸さんの頬を両手で包んで見上げれば、奥に熱を秘めた黒い瞳が俺を見下ろした。
「ねぇ宍戸さん、キスしながら入れてくださいよ」
「しょうがねぇなぁ」
まぶたを伏せて俺に顔を近づけた宍戸さんは、唇を薄く開いて俺にキスをした。
食むように啄んで、舌先が触れ合う。
シャワーをしながら味わったときより、宍戸さんの舌は更に熱を帯びていた。
静かな部屋に俺たちのキスの音が響く。
両手を宍戸さんの頬から耳に移して覆うと、宍戸さんは小さく鼻にかかった声を漏らした。
こうすると水音が頭の中で反響して興奮するらしい。
宍戸さんにもっと興奮してほしくて深く舌をさし入れると、宍戸さんは震える吐息を漏らして腰を落としてきた。
片手で俺の肩を掴んで、もう片方の手で俺のペニスを宍戸さんのアナルに誘導している。
コンドームに覆われたペニスをゆっくり飲み込む宍戸さんが俺の肩に指を食い込ませて息を詰めるのを、俺はじっくりと観察していた。
「なに、余裕そうな顔、しやがって」
「宍戸さんのえっちなところ、全部見ていたくて」
「ハッ! 馬鹿言ってねぇで、動くぞ」
肩を押されて後ろに倒れると、宍戸さんは俺に覆いかぶさるようにして両脇に手をついた。
腰だけを上手に上下させて、俺のペニスを飲み込んだり吐き出したりする。
首をもたげてのぞけば、宍戸さんのアナルから漏れてくるローションが俺のペニスを濡らして淫らに光っていた。
「すごい、宍戸さん、えっちだね」
「るせぇ、黙って、感じてろ」
「うん、そうする、だって、宍戸さん、すごく気持ちいい」
「んっ、おれも、だんだん、よくなってきた」
ゆっくりした動きが徐々に性急になっていく。
宍戸さんの熱い舌が俺の首筋を這って、耳たぶを甘噛みし、俺の唇を食べた。
口の中で宍戸さんの舌を追いかけて絡める。
部屋に響く水音がキスのものなのか繋がったところからのものなのか、もうわからなくなっていた。
ふと、胸に温かいものを感じる。
わし掴むようにあてられた宍戸さんの手は、俺の胸を下からすくいあげるような動きを繰り返した。
胸の筋肉を寄せ集めては揉み込み、ときどき乳首を引っ掻く。
何度かくりかえして満足したのか体を起こした宍戸さんは、俺の胸を触りながら緩慢な動きになっていた腰を再び上下に揺すり始めた。
ピンときた俺は、両腕を伸ばして宍戸さんの乳首をそれぞれ摘まんだ。
体をビクビクと跳ねさせた宍戸さんの胸の尖りを、潰すようにこねては摘まんで引っ掻く。
甘い声を漏らしながら腰を振るのをやめない宍戸さんの肌からは汗がにじみだしてきて、俺を受け入れながら完全に勃起した性器からも透明な汁をこぼし始めた。
「あっ、ん、それ、したら、すぐ、イく」
「もう? もうちょっと、楽しみましょう?」
「だめ、だって、っ、」
「我慢できない?」
まぶたをぎゅっと瞑ってコクコク頷く宍戸さんの腰を掴んで、下から強く突き上げた。
突然の衝撃に背を反らして逃げ腰になる宍戸さんを繋ぎとめて、腰骨がぶつかるのも構わず揺すり続ける。
穿たれ続ける宍戸さんは助けを求めるように俺の腕を強く掴んで唇を開き、喉からひときわ大きく喘ぎ声を漏らして射精した。
熱い精液が俺の胸まで飛んでくる。
内ももを震わせて絶頂の最中にいる宍戸さんを更に深く突き上げて、その一番奥に亀頭を擦りつけて達した。
俺の動きが止まったことにほっとしたのか、宍戸さんの性器は最後の一滴を俺の腹の上に零してくたりと柔らかくなった。
そして宍戸さんも、まだ不規則に震える体をふらふらとこちらに倒して、精液に濡れてしまうのも構わずに俺に抱きついてきた。
「我慢できないって、言った」
「聞こえなかったかも」
「うそつけ」
「ふふ、宍戸さん、好きだよ」
「ん」
「宍戸さんは?」
「……好き」
「知ってる」
「はぁ。なんだよこの会話」
「照れなくてもいいのに」
「照れてねぇよ」
汗に濡れている宍戸さんの背中を撫でると、収縮した腸壁から俺のペニスが押し出される。
耳元で宍戸さんが深く息を吐いて、セックスの終わりが訪れた。
俺の隣に体を横たえた宍戸さんは、ベッドのヘッドボードに置いてあるティッシュで俺の体と宍戸さんの体に飛び散った精液をふき取った。
「結構飛んだな」
「溜まってたんですか?」
「昨日もヤっといてどの口が言うんだ? あ?」
腹ばいになって上半身を起こした宍戸さんが、いたずらな笑顔で俺の乳首をつねってきた。
「痛いっ! 痛いですってば!」
「長太郎のくせにナマ言いやがって」
「ごめん、ごめんなさい!」
涙目になって訴える俺を面白がっているだけなのはわかっているけれど、痛いものは痛い。
解放された乳首を見下ろすと、つねられた方だけ赤くなってしまっていた。
「ひどいですよ。ほらこんなに赤くなって」
「おまえ色素薄いもんなぁ。もう片方も赤くしてやろうか」
「やめてください!」
「冗談だよ」
咄嗟に胸を押さえた俺を笑った宍戸さんがその笑顔のままキスをしてくる。
ひたい同士を合わせて、それからまたキスをした。
「なぁ、手どけて」
宍戸さんが胸を押さえていた俺の手に触れて言う。
いたずらしないでくださいよと念入りにお願いしてから手を外すと、赤くなった方の乳首に顔を寄せた宍戸さんはそこをぺろりと舐めた。
優しく何度も舌で撫でてくる。
ジンジンしていた痛みがだんだん引いていくようだ。
「もう痛くないですよ」
胸元で動く宍戸さんの頭を撫でてありがとうと言ったら、露骨に不満そうな顔が俺を見上げた。
「それだけか?」
「え?」
「なんも感じねぇの? もぞもぞする感じとか、痺れてくる感じとか、ちんこ勃ちそうとか」
「へ?? えっと、何も」
「なんだよ俺だけかよ」
悪態ついた宍戸さんは俺の鎖骨に頭突きしてきた。
ぐりぐりと頭を擦らせながら、その手は俺の胸を揉んでいる。
「あの、一体……??」
「おまえさ、俺が胸でも感じること知ってるだろ? さっきもそうだったし」
「はぁ。知ってますけど」
「なんか悔しくてよぉ。尻も乳首も感じるなんて、俺ばっか弱点多いみたいじゃん」
「弱点って……」
「だからおまえもそうならねぇかなって弄ったりしてたんだけど、全然ダメ。不感症。才能ナシ」
「ひ、ひどい、そんな言い方しなくても」
「あ~~~~も~~~~~」
宍戸さんは散々文句を言いながら俺の胸を揉むことをやめない。
どうせ不感症なんだから諦めたらいいのに。
そう言ったら、ムッと顔をしかめた宍戸さんは心底悔しそうに吐き捨てた。
「だって、おまえのおっぱい気持ちいいんだもん」