目が覚めて、はじめの一呼吸。
夜中の湿っていた空気とは違う、冷たくまっさらな空気。
それに混じって、毛布にくるまった体からは自分のものではない匂いがして、そしてだんだんと腹の下の方に昨夜の名残を感じ始める。
昨日の長太郎は、酒を飲んだせいかいつもより上機嫌で俺をベッドに誘った。
カウントダウンはどの番組を観ましょうかなんて言っていたくせに早々に引きずり込まれ、大晦日恒例の歌合戦でさえ紅白どちらが勝ったのか結局わからずじまいだ。
『今年も一年、宍戸さんと一緒に居られてよかった』
俺の首もとに頭を突っ込みながら長太郎が言った。
エアコンをつけていなかった寝室は冷え冷えしていて、服を一枚脱がされるたびに長太郎に抱きついて温かさに縋った。
シーツの冷たさを素肌に感じ、胸を這う長太郎の指の熱さに体が震えた。
『寒い? 乳首勃ってる』
俺の返事を聞く前に、長太郎は左側のそれを唇ではさんだ。
温めるように、長太郎の柔らかい舌が何度も押しつけられてはゆっくりと行き来する。
酔っているせいなのか、長太郎はいつもより熱い唾液をたくさんこぼしてはじゅるじゅると吸った。
そのたびに、どういう仕組みかはわからないが、腰のあたりに電流が走る。
触ってもいないのに勃起しているのがわかって、それを隠したかったけれど両手を長太郎に繋がれていたから叶わなかった。
『宍戸さんのここ、もういっぱい溢れてますね』
よだれまみれの乳首から顔を離して俺を見下ろした長太郎は、堅くなった自分のもので俺の先端に触れた。
透明な液が長太郎との間に伸びて、切れる。
なにが楽しいのか、長太郎は繰り返し、亀頭同士をキスさせて遊んだ。
『はは、くだらない。でもなんか、うれしい』
なにが嬉しいのか尋ねたら、宍戸さんとバカなことしてるからですよと言った。
解放された両手は行き場がなく、シーツの上に投げ出される。
足が開かれ、ローションでうしろをぐずぐずにされている間は心許なくて、早く長太郎に触れたいと、そればかり考えていた。
長太郎がひとつ息を吐いて入ってくる。
くすぶっていた体が途端に熱くなって、汗がじわりとにじむのがわかる。
『宍戸さんのなか、あつい』
おまえのも熱いよと言ったら、長太郎は気持ちよさそうに眉根を寄せて微笑んだ。
あとはもう、揺さぶられるがまま、腹の奥を一生懸命に突いてくる長太郎に抱きついて快感だけを追いかけた。
いつもの手順、いつもの気持ちよさ。
だけどなぜか特別な気がした。
年が明けるということは、過ごしてきた一年に別れを告げ、新しい一年に一歩を踏み出すということだ。
長太郎と一年をともに過ごせたことを素直によかったと思える。
そしてまた一年、こいつと一緒にいられたらいいと思った。
天井を見上げて昨夜のことを思い出していたら、隣に眠っていた長太郎が寝返りを打った。
長太郎との間に隙間ができて、冷たい空気が毛布の中に入り込んでくる。
まだぬくいまどろみに留まっていたくて、こちらを向いてまつげを瞬いた長太郎に抱きついた。
「ん、宍戸さん、おはよ」
「おはよ。さみぃから」
「うん」
毛布の中で、長太郎の長い腕が俺の背中に巻き付く。
アルコールのせいじゃない、寝起きのまったりとしたぬくもりに包まれる。
「あけましておめでとうございます。カウントダウンしそびれちゃいましたね」
「おまえのせいだろ。あけましておめでとう」
「あ、でもえっちしてるときに年を越したから宍戸さんと繋がったままだったわけで、それはそれでいいですね、ってイテテテテ」
抱きついた背中に爪を立てたら、長太郎は背を伸び上がらせて俺から逃げようとする。
その体を追いかけて毛布の中で長太郎に馬乗りになると、涙目が俺を見上げた。
「あほなこと言ってんな」
「すみません。でも気持ちよかったし」
年末の慌ただしさでしばらく肌を重ねていなかったせいか、一度のセックスでは到底満たされるはずもなく、少なくとも長太郎は三度俺の中で達したし、俺の方はというと途中から覚えていない。
魂が抜けるほど抱き合って、泥のように眠った。
そのせいなのか、はたまた新年があけたからなのかはわからないが、なぜか体がリセットされたような気分だ。
「えっ」
毛布の中で長太郎の腹に俺自身を押し当ててみると、少し堅くなっているそれを擦り付けられて、長太郎が目を丸くする。
唇を舐めてやると、好奇心と不可思議と欲情の入り交じった瞳を俺に向けた。
「あんなにしたのに?」
「それは去年の話だろ」
「去年って。つい昨日の夜のことじゃないですか」
「ヤリたくねぇの? あれくらいでヘバッたりしねぇだろ、おまえは」
長太郎の手が腰に伸びてくる。
うしろを指先で撫でられてキュッと締まってしまうのを抑えられなかった。
「熱烈ですね」
「うっせぇ」
起きあがろうとする長太郎の胸を押す。
「俺がする」
枕に沈んだ長太郎は俺を見上げて、嬉しそうに目を細めた。
「ほんと? わぁ、いい一年になりそう。一年の計は元旦にありって言いますもんね」
「なに言ってんだか」
「それにこれって姫はじめってやつですよね。お正月っていいなぁ」
「姫はじめか。わかった、お姫様みたいに優しく抱かれてやるよ」
「あはは、優しく抱かれてやるって、意味わかんないけどかっこいいです」
笑みの弧を描く唇に触れる。
寝正月は避けたいところだが、俺も大概、新年に浮かれている。