もっと なみだ

仕事帰りの金曜の夜は、どこも賑やかで浮き足立っている。宍戸も例に漏れず、明日から始まる三連休にどこに出掛けようかとそればかり考えていた。『ちょっといいワインを手に入れたので』そう言って宍戸を誘ったのは鳳だった。鳳とは恋人…

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ラバーズララバイ

眠る前のセックスは宍戸さんとの決めごと。どんな体位でもいいけれど、必ず挿入してお互いに果てること。この約束をしてからかれこれ三か月。未だ一日たりとも破られたことはない。 「はっ、っ、あっ」突っ伏して腰を高く上げる宍戸さん…

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乱破

草木も眠る丑三つ時。月のない闇夜に、ぎょろりと光る目玉が二つと二つ。音もなく木々を渡り、山のてっぺんの大杉に止まった。戦火を免れたこの杉を、この土地の人間は御神木として崇めているという。そんな信仰を知ってか知らずか、たと…

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隣人

俺の住んでいるアパートの壁は薄い。ちょっと大きな音で音楽を流そうものならすぐさま壁を殴られる。夜中の静かな時間帯なんかは、隣の住人の足音すらも聞こえてくるくらいだ。他人の生活音が気にならないといえば嘘になるが、そこまで繊…

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いつの世までも

残業でクタクタになった金曜の夜。通勤に使っている路線の沿線上にあるデパートで沖縄物産展が開催されていると知ったのは、帰りの電車の中だった。車内には夜遅いというのに人が溢れていて、つり革につかまって外を眺めても地下鉄の暗い…

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狼3

狼2の続きです 月が明るい。駅からの帰り道、ぽつぽつと街灯がともる路地を歩きながら見上げた空にはまんまるの満月。雲一つかかっていない。草むらがあるのかどこからか涼やかな虫の音も聞こえてきて、秋の月夜にピッタリな雰囲気を醸…

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愛のしるし

鳳長太郎がそのしるしを見つけたのは、部活終わりのロッカー室でのことだった。着替えの途中、上のユニフォームを脱いだままベンチにどっかり腰かけた宍戸の、ハーフパンツがめくれて露出した内ももにそれはあった。直径一センチの、すも…

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いっしょに朝ごはん

うちに宍戸さんが泊まりに来た日の俺の決めごと。次の朝には和食の朝ごはんを作ること。 いつもより早めの時間に目覚ましをかけておいた俺は、まだ眠っている宍戸さんを起こさないように、そーっと寝室を出た。本当は、うつ伏せている宍…

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エマージェンス・ピリオド DAY7

ぱちゃん。湯舟の水面が揺れる。立ったまま浴槽のへりに片足をかけて壁に手を付く宍戸は、鳳の楔が急にうしろから抜けていく感覚にぶるっと身震いした。湯舟の中を一歩後ずさりした鳳に性急な手つきで腰を掴まれたと思えば、硬いままの陰…

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エマージェンス・ピリオド DAY6

朝から長太郎が離れない。顔を洗う時も軽く部屋の掃除をしている間も、俺の後ろをついてまわってはくっついてばかりだ。遅めの昼食を作るためにキッチンに立ったのだが、背中から抱きしめてくるので野菜を切る手が止まってしまった。「お…

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エマージェンス・ピリオド DAY5

起床。まずは洗濯物を洗い直すことにした。昨日洗ったまま洗濯機の中に放置してしまったのはいけない。宍戸さんのお世話を完璧にこなそうと決意したというのに、最後の最後で詰めが甘かった。「だってさぁ、宍戸さんてば、たまんないんだ…

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エマージェンス・ピリオド DAY4

しっかりしなきゃと自分で自分を鼓舞したはいいものの、そう容易いことではないと鳳は自覚していた。宍戸のフェロモンに誘われたら何をおいても身を差し出してしまうのだ。食事よりもセックス、睡眠よりもセックス。性的欲求を満たそうと…

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エマージェンス・ピリオド DAY3

腰の上にのしかかる重みと、濡れた感触で目が覚めた。どうなっているのか、何をされているのか、まぶたを開く前からわかっていた。なぜなら眠る直前まで同じ温かさに包まれていたのだから。「長太郎、起きたか?」俺に跨る宍戸さんは、裸…

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エマージェンス・ピリオド DAY2

東京に戻ってきてから初めてヒートを起こした宍戸は、鳳の衣服で巣を作り緩やかに発情した。その甘いフェロモンに呼応するように、鳳は宍戸を求め、宍戸は巣に招き入れた。これは、ヒートに不器用なΩと、彼を心から愛するαの、巣ごもり…

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明日は日曜

トリシシおうち診断からお題頂戴しました “小さな台所で お互いの体の贅肉をつまむ 次の日のデートに浮かれている鳳宍”(デート感はどこかにいきました)   明日は日曜。晩御飯を食べ終わったし、お風呂にも入ったし、あとは眠る…

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狼2

狼の続きです あの満月の夜。初めて長太郎と深く繋がった夜。窓から差し込む淡い光をギラつく瞳に反射させて、長太郎は俺を見た。押し付けられ揺さぶられるたびに床に擦れた背中も、噛みつかれた首も、爪が食い込むほど強く掴まれた足も…

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オオカミなんです、俺。青空の屋上で、弁当の肉団子に箸を突き刺しながら長太郎は言った。横目で見ながら口の中のサンドイッチを飲み込んで、パックの牛乳を啜って、流れの遅い雲を見あげる。「なんだそれ。昨日のこと言ってんのか」「え…

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すきなところ

「俺ね、宍戸さんの手が好きです」寝転がったまま俺の手を取って、長太郎は目を細めた。体を重ねて、汗だくになって、果てたあとに残った心地いい疲労感にまどろみながら見つめられると、満足したはずなのにまた触れたくなってしまうから…

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いじわる

ベッドに押し倒されて、右手も左手も繋がれシーツに縫い止めるように拘束された。ゆっくり覆い被さってきた宍戸さんは俺の唇に唇を寄せて、そして啄むようにキスをした。「なぁ、今、なにしてる」宍戸さんが問いかける。分かりきっている…

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鳳長太郎の赤い恋

バレンタインが近い。クラスの女の子たちは誰にどんなチョコレートをあげるかという話題で持ちきりだ。こっそり盗み聞いている男子たちは、気にならない振りをしていても期待を隠しきれない様子でそわそわしている。友達に、おまえは気に…

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