朝から雨が降っている。
昨夜の情事の疲労がまだ腰のあたりに残っていて、ベッドから起き上がるのも、服を着るのも億劫で、日曜だしいいか、と目覚めてからしばらくぼぅっとしていた。隣にはまどろむ長太郎がいて、その素肌の温かさを甘受しながら、しとしと、窓の外から聞こえてくる雨音が耳に心地よい。昼間なのに部屋の中は薄暗く、しかし照明をつける気分にはなれなかった。煌々とした人工の光を浴びずに、外界から遮断されたようなうっそりとした雰囲気を二人で共有していたい。
「なぁ」
毛布にくるまり、まだ半分夢の中にいる長太郎に話しかけると、んぅ、と鼻から抜けるような声を発し眉間に皺を寄せた。それはすぐに弛緩し、長太郎はまぶたを閉じたまま眉尻を下げて微笑んだ。
「ししどさん」
甘さを含んで、語尾が聞こえるか聞こえないか、それでいてしっかりと耳に残る、そんな風に寝起きのこいつは俺の名前を囁く。俺はとっても幸せです、そう言われているみたいでむず痒い。何年間も毎朝聞いているその声に、俺がどれだけ救われてきたかおまえは知らないだろう。へまをやらかして落ち込んだ日も、八つ当たりしてひどい言葉を浴びせてしまった日も、一緒に眠って朝がくればいつだって長太郎はこうして俺の名前を呼んだ。一日の始まりに、まだ半分眠っていて働かない頭で、こいつはおはようよりも先に『ししどさん』と口にする。
「長太郎、おはよ」
だから俺もおはようよりも先にこいつの名前を呼んでやる。するとやっと長太郎のまぶたが開いた。瞳を見つめ返して顎の下をくすぐってやると、ふふ、と首をすくめて笑った。
「もう、くすぐったいですよ」
目を細めてあんまり楽しそうに笑うから、寝癖のついた髪に指を滑らせて撫でてやった。何度か撫でていると長太郎が脱力していくのがわかる。こいつまた眠ろうとしてるな。
「お前、まだ寝るつもりかよ」
「だって、宍戸さんの指きもちいいから」
「だったらまたくすぐってやろうか」
「えー、もっと撫でてくださいよ」
頭から離そうとした俺の手を取って、もう一度自分の頭を撫でさせようとしてくる。しかもおねだりの上目遣い付き。自分よりでかい男にそんな仕草されても可愛くもなんともない、とは言えないくらいにはこいつにほだされてしまっている俺は完全に敗者だ。撫でずにはいられないだろう、こんなもん。
「なに可愛い子ぶってんの」
「えへへ」
甘え上手って生まれつきなのだろうか。それとも姉ちゃんがいるやつってみんなこうなのだろうか。中学生だったころならいざ知らず、成人して随分経つというのに俺の目にはこの男が可愛く見えて仕方ない。自分でもどうかしていると思うが、気を抜くと抱きしめて頬擦りしてしまいたくなるのだ。気恥ずかしいし、なんとなくそれをしてしまったら後戻りできなくなるような気がしているから絶対にしないけれど。
後輩に対する可愛さと、恋人に対する可愛さが別物だってことくらい鈍感な俺だってわかっている。わかってはいるのだが、こんなに甘苦く胸を締め付けるものだろうか。衝動に負けそうになるのは常日頃で、そして俺がそれと戦っていることを、長太郎はわかっていて挑発してきている節がある。だからこそ余計に俺は意地を張ってしまうのだ。
だめだ、居たたまれない。ごまかすようにわしゃわしゃと長太郎の髪を混ぜた俺は、素早く毛布の中に手を突っ込んで今度は無防備なわき腹をくすぐってやった。体温の高い長太郎の肌は、少ししっとりしている。
「え、うわ、あはは、やだ、やめてくださいよ」
「このやろっ」
「しし、宍戸さん!あはは、くすぐったい、ですって、はは」
身を捩って無邪気に笑う長太郎を見ていると、純粋に楽しいと思える。
「や、そんな、はは、笑わないでください」
そう言われて俺も笑っていたことに気付く。だってお前が笑うから。いたずら心が止まらず、筋肉の上からあばら骨をつまむようにくすぐってやるとついに長太郎は反撃してきた。俺のわき腹に伸びる手を阻止しようと肘を張って対抗してみるが、悲しいかな腕の長さで長太郎に勝てるはずもなく、あっという間に形勢は逆転した。
「ぎゃはは! やめ、ろってお前!」
「宍戸さんがやめたら、やめますよ!」
「ひー! わかった! わかったから!」
しかしお互いに手を止める気はない。元来、二人とも負けず嫌いな性質なのだ。いくら恋人同士だからって、相手が男である以上遠慮や手加減は無いも同然。部活の先輩後輩関係であったことへの気遣いも薄れつつある今、ベッドの上は戦場と化していた。笑い転げながらバタバタ暴れるせいで掛け布団と毛布は腰のあたりまでずれ落ちて肌寒い。しかし笑いすぎているのと、長太郎の手が熱いのとでうっすら汗ばんできた。
涙も出てきた気がする。
思った以上に反撃は猛攻で、もう俺の手は長太郎のわき腹に添えるだけになっている。腹筋が引き攣りそうになるし、何より昨日のあれやこれやのせいで腰に力が入らないから上手く逃げられない。
「も、もう、無理、ちょた、ろ」
笑い死にしそう、もう限界、とひーひー言いながら訴える。
すると長太郎の手がぴたりと止まった。ぎゅっと縮こまっていた体を弛緩させ、肩でぜぇぜぇ息をする。見ると長太郎も同じく、横向きにぐったりと枕に頭を預けて胸を大きく上下させ呼吸していた。
「はは」
朝っぱらから何やってんだ。自嘲気味に言ってみる。が、長太郎の反応がない。
「長太郎? どうした、大丈夫か?」
「あの、宍戸さん」
「ん?」
「怒りませんか?」
「んん?」
息を整えた長太郎は、さっきまでの破顔はどこへやら、やけに神妙な顔でこちらにずいっと寄ってくる。寝ぼけ眼だったはずの瞳はぱっちりと覚醒し、その奥底が燃えているかのようで少し尻込みした。
「なんだよ、こえーよ」
「さっきの、宍戸さん、とっても色っぽかったんで、」
「はぁ?」
「あの、俺、勃っちゃいました…」
「…ばかじゃん?」
つい毛布の中を覗こうとした俺の頬を長太郎の両手が覆って阻む。散々やることをやってきて今さら何を、と思うのだが長太郎はこういったからかいを変に恥ずかしがる。
「見ないでくださいよ!」
「いやだってお前が勃ったとかいうから」
「うぅ」
情けなく目をそらして赤面して見せるこいつが、ゆうべ俺を何度も絶頂に追いやった人間と同一人物だとは。
「てかさっきまでやりとりのどこに興奮する要素があったんだよ」
「名前を呼ばれたので」
「名前?長太郎って?別にいつも呼ぶじゃねぇか」
「そうじゃなくて、宍戸さんの声が」
「声?」
「えっと、その、している時と似ていたので…」
「してる、時」
なにを、とは聞かなった。つまり、こいつは俺が息も絶え絶えに長太郎を呼ぶ声を、セックスの最中に呼ばれるのと重ねてしまいそういう気分になったと。
「おまえなぁ」
「ごめんなさい、うぅ」
でも、と長太郎は続ける。
「でも、くすぐられてくすぐったいと感じるのは、信頼している相手からされることだからだそうですよ」
少しカサついた長太郎の親指が俺の頬を撫で、そして指の腹で下唇にちょんと触れた。長太郎がキスをしたいときにする癖だ。正しく受け取った俺は、じっと長太郎の目を見つめ、唇を見つめてから、また目を見つめる。これはOKの合図。長太郎も正しく受け取り、形よく笑んだ唇が触れるだけのキスを落としてきた。
「ほら、信頼の証です」
「信頼ねぇ」
「何も言わなくてもキスさせてくれたでしょう」
「慣れってやつじゃねぇの」
「慣れでもいいんですよ。こうして今も一緒にいられるんですから」
確かに、部活が一緒だっただけのやつと共に暮らすまでになっているのは、そこに信頼とか、愛情とか、いろんなものがない交ぜになった結果と言える。こいつは俺を諦めなかったし、俺もこいつを諦めきれなかった。ただ長太郎がいない人生を想像できなかった、それだけだ。
「宍戸さん、これは提案なんですが」
「なんだ?」
「今日はもうちょっと、このままベッドで過ごすのはどうでしょう」
起き上がり俺の横に手を付いてのし掛かってきておいて、提案だなんてよく言える。
「なんなのお前。完璧その気じゃねぇか」
「宍戸さんもその気になってくださいよ」
「生意気」
多少腹が立ったので鼻をつまんで引っ張ってやった。綺麗な顔してみせたって俺には効かない。鼻で息が出来なくなった長太郎は、ふがっと口を開けてマヌケな声を出した。
「いひゃいれす、ひひろはん」
「寝癖つけてかっこつけたって全然キマってねぇ」
「ごめんらひゃい」
一応謝ってきたので開放してやる。眉尻を下げて、痛い、と涙目になっている長太郎。こっちのほうが断然こいつらしくていい。すると、さっき吹き消したはずの感情がぶわりとこみ上げてきた。
ああ、くそ、可愛いなこいつ。
絶対はたから見たら可愛くもなんともない、むしろダサくてかっこ悪いようなこいつの仕草に、俺は心臓をわしづかみにされてしまう。惚れた弱みというか、欲目というか、まったく恋だの愛だのいうものはままならない。悔しいが、今だってもう長太郎の好きにさせてやりたい気持ちの方が強くなってきてしまっている。意地を張りたいのと、素直に提案に応じてやりたいのとで揺れる俺の表情は自分でもわかるくらい険しくなっているんだろう。それを俺の機嫌を損ねたと勘違いしたのか、長太郎は焦ってあわあわしながら頬や額やまぶたに口づけてきた。そうじゃない、やめろ、余計にグッときちまうじゃねぇか。
「言っとくけど」
こめかみに口づけていた長太郎がガバっと身を引いて俺の目を覗き込んでくる。その瞳にいくばくかの期待が読み取れてしまい、ああ、くそ、と再び思う。
「昨日お前が好き勝手したせいで、俺そんなに動けねぇからな」
「大丈夫です! 俺が全部します」
嬉しそうにしやがって。
俺は長太郎の首に腕を回して引き寄せた。額を合わせると吐息が混ざる。腹の下の方がもったり重くなってきて、これからどんなことをするのか、思い出すだけで体が反応するようになってしまったのはいつからだったか。
「長太郎」
「はい、宍戸さん」
「洗濯もお前がしろよ」
「はい!」
昨日散々突かれたせいか、長太郎の指ははじめからすんなり入った。二本に増やされ、ナカを確かめるようにゆっくり奥まで入れてからまたゆっくり引き抜き、ローションを足していく。腸壁に塗り込むように丁寧に指の腹を滑らせ、長太郎はことさら時間を掛けて俺を拓いていった。
こういうことを二人でするようになった頃は羞恥心に耐えられなくて、いいから早く入れろと怒鳴りつけたこともある。それでも長太郎はゆっくり丁寧に、ことを進めた。挿入されることに慣れてからも、もう十分だと言っても聞く耳を持たず、俺の反応を観察しながら指を増やして快感を引き出していく。その視線にさえ俺の体は反応する。毎回そんな調子だから抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなって好きにさせるようになった。仰向けになってだらしなく足を開く格好にも慣れた。
「んっ」
「宍戸さんのここ、もう柔らかくなってますよ」
「っ、言わなくて、いい、っ」
「こっち、一回出しておきましょうか」
長太郎の舌が亀頭に触れる。挿入していない方の手で硬くなった根元を固定して、唾液を纏わせるように舌を這わせてきた。裏筋を熱い舌全体で舐め上げられ、カリに舌先を引っ掛けては弾くようにして刺激される。
「あ、っ、ん」
舌の動きに合わせて腰が揺れる。こればかりは我慢の仕様がない。
「気持ちいいですか?」
気持ちいい。
唾液で全体がべたべたになったころ、ようやく長太郎は口を開けて俺のを咥えた。敏感になっている急所を熱い粘膜に覆われて、一瞬なぜかほっとしてしまう。それはこの後、長太郎によって確実に快感をもたらされることを知っているからなのかもしれない。
すぼめた唇で扱かれる。じゅぶ、と部屋に響く水音が耳を犯した。長太郎は頭を上下させ始め、それと同時に後ろに入ったままの指で一番敏感な部分を擦り始めた。前立腺と呼ばれるそこは他の部分とは触った感じが違うそうだ。少し膨らんでて、だから見つけやすいんですよ、と長太郎に言われたことがある。本当にそうなのか、自分では触ったことがないので知るよしもないが、実際に長太郎は的確にそこを攻め、そして俺はわけがわからなくなる。
「いっしょに、は、だめだ、って」
「んー」
「ぅあ、あ、っ、や、べえ」
口の中で舌をぴったりとつけて吸われ、亀頭の先が長太郎の上顎を擦って喉まで届く。その間も前立腺を撫でる指は止まらない。半ば強制的に促される射精感の限界はそこまで来ていた。無意識に腰が浮いて、見下ろしたこの体勢は自分でもえろいなと思ってしまう。俺がそう思うんだから長太郎は尚更で、唇でカリ首を繰り返し引っ掛け一層強く攻めたて始めた。
「ちょ、たろ、や、あぁ、むり、も…、出る」
もう弾けそうというタイミングで尿道口を舌先でつつかれ、あっけなくイってしまった。精液を先端から吐き出すときの快感が頭の先まで走り抜け、腰がビクビク跳ねる。指を引き抜いた長太郎はしばらく俺のを口に含んだまま全部出し切るまで緩く吸い続け、そして飲み込んだ。柔らかくなったあとも舌で残りの精液を舐めとって、一滴たりともあますことなく胃におさめた。
その様子を、酸素を求める荒い呼吸のまま眺める。
かわいそうに、俺の精液を飲み込んだところで、それはただ吸収されておしまいだ。逆もまた然り。そう皮肉めいたことを言ってみたことがある。だが長太郎は、『宍戸さんが何を言いたいのか、わかるようでわからないですけど、そんなに難しいことを考えているわけではありませんよ。ただ好きな人が俺のせいで気持ちよくなっているのが嬉しいだけです』とはにかみながら言った。俺が勝手に抱いた罪悪感や悲しみが音もなく溶けていく気分だった。
「気持ちよかったですか?」
「うん」
「よかった」
「長太郎」
「はい」
じっと見つめる。それだけで長太郎は体を伸ばし覆いかぶさってきて、唇で食むようなキスをされた。
「合格」
「ふふ」
わしゃわしゃと両手で頭を撫でてやると、今度は戯れるようなキスが返ってきた。それは徐々に深くなり、長太郎の舌が俺の舌を追う。青臭い味のするキスだ。けれど流れ込んでくる唾液を飲み込んでいるうちにそれも気にならなくなった。味蕾が擦れると首筋がぞわぞわする。長太郎も同じ感覚だろうか。わかるはずもないのに気になって、おもむろに長太郎の首筋を撫でてみた。
「それ、気持ちいいです」
キスの合間に囁かれる。本当に気持ちよさそうに目を細めるので、舌を伸ばして唇を舐めてやると舌先に歯を立てられた。
「いひゃい」
「さっきのお返しです」
そのままちゅっと音を立てて吸うと、長太郎は頭をずらし俺の鎖骨を甘噛みした。痛みはないが、何度も歯を立て、舌を這わせ、意図的に性欲を煽られるとさっきまでの熱が蘇ってきてしまう。尾てい骨の辺りがぞわぞわしてきて、その歯痒さから逃げようとすると自然と背が反っていく。そして喉元を晒して、ため息のような呼吸しかできなくなる。
「宍戸さん、いいですか」
こうなると、あとは長太郎に任せてしまったほうが全てうまくいくのだ。俺は返事をする代わりに長太郎の胸を押した。瞳に宿った熱を隠そうともせず、汗ばんだ手のひらが俺の内腿を撫で上げた。抵抗せずに両足を開いてやって、その間に入ってコンドームの袋を破る長太郎を見上げる。柔和なまなざしは消え幾分か冷淡に見えるその表情は、その実、早く俺と繋がりたいという焦りからくるものなのだ。真剣になればなるほど無表情になるのが昔からのこいつの癖で、それがベッドの上でも発揮されていることに気付いた時には思わず吹き出してしまって長太郎を拗ねさせた。
「おい、焦んなって」
「だってこれ、つけにくいんですもん」
「いつものやつは?」
「昨日でなくなっちゃいました」
以前ひとつだけ使ってみてつけ心地が気に入らず、かといって捨てるのも憚られ置きっぱなしだったコンドームは薄いのが売り文句だったが、そのせいで長太郎は着脱に苦戦した。今も、うまく根元まで巻き下げられずに四苦八苦している。
「あとで買いに行かねぇとな」
「そうですね。っと、出来た」
指についたコンドームの潤滑油をシーツで拭い、長太郎は俺の膝裏に手を掛けた。
開かれれば簡単に俺の秘部は露わになる。ローションでドロドロになったままのそこが外気で冷えて身震いした。
挿入されるのを待つだけの、この時間が少し苦手だ。例え長太郎にその気はなくとも、受け入れる側である俺は覚悟を強いられている気分になった。こればっかりは何度セックスしても慣れない。それでも繰り返しこの行為にふけってしまうのは、単純に長太郎と肌を重ねることが好きだからなのだろう。
それに苦手なだけで嫌いではないんだ。ゆっくり入ってくるときの、じわじわと浸食されていく感じは悪くはないし、全部入ったあとに長太郎が奥歯を噛み締めた険しい顔で深呼吸するのは、見ていてたまらない気持ちになる。
「宍戸さん、入れますね」
「ん」
息を詰めないように少しずつ吐き出す。熱い塊が俺の中を押し広げながら入ってくる感覚にぶわっと体温が上がり始めた。
「おまえの、あっつ…」
余裕ぶってみせたくて口を出た言葉は、予想外に熱っぽく響いてしまった。
下唇を噛んだ長太郎と目が合い、しかしすぐにその視線は逸らされてしまう。全部入るまで腰を進めた長太郎は眉間に皺を寄せて肺の中の空気を吐き出した。
「動きますよ」
俺の右足を肩にかけて、長太郎は更に挿入を深くしゆるゆると腰を振り始めた。動くたびに粘度の高い水音が、荒い呼吸の合間に俺たちの鼓膜を震わせる。催眠術にかかったみたいに体の感覚が敏感になっていく気がした。
「あっ、っ…ん、ふっ」
「…、っすご…」
昨日、最奥まで執拗に穿たれた名残か、自分ではどうしようもないくらい内側が反応している。突かれる度に収縮し逃すまいと絡みつく、と言うのは長太郎の言葉だが、俺の排泄器は長太郎を求めるとひどく貪欲になって言うことを聞かなくなる。初めの頃は動揺したが、長太郎に導かれるまま甘い焦燥を追いかけるのは、既に俺にとって自然なことになった。
「あ、ぁ、ゃ、ちょう、たろ」
「すご、いですね。宍戸さん。す、ごく、気持ちいいです」
「やめ、うぁ、…ふっ、ぅ」
「……イキそうですか?」
ぐん、と勢いをつけて打ち付けられる。
「っ!あ、あっ」
「ふ、ぅ…きつ…」
「なぁ、も、ぅ、出したい」
「あれ、中でイくんじゃないんですか」
馬鹿野郎。それこそ本当に腰が立たなくなっちまう。貴重な休日をベッドで過ごして終わらせる気はない俺は、揺さぶられながら長太郎にガンを飛ばした。
「っ…そんな、気持ちよさそうな顔で睨まないで…」
一旦動きを止めた長太郎は俺の腰を抱え、浮いた隙間に枕をさし入れた。腰を突き出す姿勢になり、挿入の角度が変わる。そして再び律動し始め、前立腺を抉るようにして打ち付けてきた。自分の尿道から涎みたいに垂れていたカウパーが飛び散り、腹を汚した。
もう苦しい、長太郎、と喘ぎながら腕を伸ばせば、長太郎は上体を倒して胸を合わせてきた。その背中に縋りつく。上気した肌に汗がにじんでいた。
首筋に鼻先をうずめて色濃い長太郎のにおいを吸い込んだら、なんかもう、ぐわっときた。
可愛い、俺の、長太郎。
「は、あぁっ、っ、んっ、ちょうたろ、ぉ」
「っく、っ」
熱い手のひらが亀頭を覆い、垂れ流しのカウパーをローション替わりにしてぐちゅぐちゅ扱く。限界をとっくに超えていた俺は、長太郎に突かれながら射精した。長太郎の腰に巻き付けた足が痙攣するのを止められない。
耳元で長太郎の切羽詰まったうめき声を聞きながら、銀色の髪の毛が汗で張り付くこめかみにそっと頬擦りした。
雨はまだ止みそうにない。汗まみれのシーツは洗ったら乾燥機に放り込もう。
とりあえずシャワーを浴びようとしたら長太郎もついてきたので、浴槽にお湯を張って二人で入ることにした。長太郎が姉ちゃんにもらったらしい乳白色の入浴剤は、知らない花の匂いがする。
「おなか、すきましたね」
「だな」
「ご飯食べたら何しましょうか」
「セックス以外のこと」
湯に浸かって背もたれにしている長太郎を振り向きざまに見上げると、居心地悪そうに照れながら「そんなはっきりと言わないで…」と頬を染めていた。
だからなんでここで恥ずかしがるんだよこいつは。
向かい合って頭を撫でたらふにゃふにゃ笑う。
それがすげぇ可愛かったから、やせ我慢するをやめて、思いっきり抱きしめてやった。